能登金剛は、能登半島国定公園を代表する景観の一つです。
福浦港から関野鼻までの海岸線をさし、険しい断崖と荒波が作り出した奇岩が続いています。
1番の見どころは「巌門」で、浸食によってぽっかりとあいた大きな穴は圧巻!
岩の下を通り抜けその迫力を体感してください。「鷹の巣岩」や「機具岩」、「碁盤島」を巡る遊覧船が出ており、海上からも巌門を眺めることができます。
石川県羽咋郡志賀町富来
のと里山海道西山ICから車で約30分
能登金剛 旅行記
台風も近づく九月。白と灰色のグラデーションが、荒波のように空で交わる北陸の空。
松本清張が書いた小説、『ゼロの焦点』でも描写された世界がそこに広がっていました。
本作は戦後間もない昭和を舞台に、行方不明になった夫を追う妻の話です。
作中、能登金剛は主人公が訪れる場所として登場します。
能登金剛へは、鉄道は昭和中期に廃止になり、車で行くしかありません。
道中は北陸特有の、赤錆が目立つアスファルトを進んでいきます。
このあたりに詳しい友人が言うには、積雪対策で地下水を汲み上げ、放水した結果、ミネラルが赤錆として残ります。
他の地域では見られない道を行きながら、深い森に囲まれ、昼間だと言うのに深夜のようにくらいトンネルを抜けると、左手には獰猛な日本海がその姿を表します。
遠くに見える水面は、まるで大自然という生命の営みを感じさせます。
しかし、逆の方を向けば風力発電の巨大な翼がグルグルと回っていました。
自然と人工物が入り乱れるそのアンバランスさが、少し不気味さを感じさせます。
ここは能登半島の背骨のあたり、羽咋にある断崖絶壁の一角、それを能登金剛と言います。
車を降りてから風は強く、その音の向こうからザパーン、ザパーンと激しく荒波が打ち付ける様子を感じ取ることができました。
松の木の奥、眼前に広がる日本海は、はるか足元に広がります。
崖の上から見下ろすと、息が詰まる緊張感が走ります。
『ゼロの焦点』に感化され、投身自殺が何件かあったと言います。
最初はそんなバカなと、思いますが、荒々しい風と打ち付ける波、それをじっと見つめると、なんだか引き込まれてしまうような感覚になります。
都市部の高層ビルから見下ろす高さに比べれば、低いです。
しかし、能登金剛には人を惑わせる美しさがあります。
長い年月をかけて波が削り出した、まるで鋭利な刃物が連なるような岩壁、突き刺さるような風、五感で感じる情報が、異空間にいるような錯覚に陥ります。
ですが、不愉快ではありませんでした。
令和の世に生きる我々は、高度に発達した情報社会で、時間も空間もシームレスに生活することができます。
そのかわり、どこか息苦しさを感じていました。
いつどこにいても、仕事や普段の生活に戻らざるを得ない、そんな世界にいるのです。
しかし、能登金剛はそんな現代に生きる自分を、過去の人間へ巻き戻してくれるような気がします。
松本清張の作品は、日本中をまたにかけたものがあり、『ゼロの焦点』も東京と金沢を行き来します。
当時、新幹線はなく、飛行機も高音の花で簡単に乗れません。
そんな当時の人たちは何時間もかかる夜行列車に乗るのです。
その時は、ゆっくりと様々な町を通り、目的地に向かいます。
令和では、移動も発達し切りました。
新幹線も、飛行機も、モータリゼーションでどこへでも行けます。
そんな、現代の便利をさを忘れて、大自然の様子を、じっと見ることができます。
今で言うデジタルデトックスのようなものです。
最後に、この場の記念碑に刻まれた、松本清張の言葉で締めくくりたいと思います。
「雲たれて ひとり たけれる荒波を かなしと思へり 能登の初旅」