「岸壁の母」の歌とともに全国に知られる引き揚げのまち舞鶴。昭和20年10月7日に引揚第1船「雲仙丸」が舞鶴に入港して以来、13年にわたり、66万人以上の引揚者と1万6千柱の遺骨を迎え入れ、多くの喜びと悲しみのドラマが生まれました。
戦後60余年を経た今、往時を偲ぶ建物は残っていませんが、この引揚の地を見下ろす小高い丘に、昭和45年「引揚記念公園」が設けられ、引揚桟橋も復元されています。
ラーゲリより愛をこめて
第二次大戦後の1945年。そこは零下40度の厳冬の世界・シベリア…。わずかな食料での過酷な労働が続く日々。死に逝く者が続出する地獄の強制収容所(ラーゲリ)に、その男・山本幡男は居た。「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます。」絶望する抑留者たちに、彼は訴え続けた――身に覚えのないスパイ容疑でラーゲリに収容された山本は、日本にいる妻・モジミや4人の子どもと一緒に過ごす日々が訪れることを信じ、耐えた。劣悪な環境下では、誰もが心を閉ざしていた。戦争で心に傷を負い傍観者と決め込む松田。旧日本軍の階級を振りかざす軍曹の相沢。クロという子犬をかわいがる純朴な青年・新谷。過酷な状況で変わり果ててしまった同郷の先輩・原。山本は分け隔てなく皆を励まし続けた。